構造と意匠が融合した 職住一体の家
緑豊かな住宅街の一角に立つ高床式の建物と母屋。外壁や建材には道産カラマツが多く用いられ、シンプルなフォルムに木の温かみとやわらかな雰囲気をまとわせています。一見、店舗のようにも見えるこの建物は、構造設計家、山脇克彦さんのアトリエ兼自宅。奈良県出身の山脇さんは、学生時代から通い詰めていた北海道に根を下ろすべく、東京の大手設計会社から2015年に独立。札幌に事務所を構え、構造設計の立場から「風土に根ざした木造空間」を追求してきました。
8年ほど前、山脇さんは縁あって武部建設の建物づくりにも参加するようになりました。「森を育てながら、切り出した木を無駄なく大切に使う姿勢、大工の伝統的な技へのこだわり、多種多様な専門家との協業の素晴らしさ。これまで目指してきた建物づくりの姿勢や想いが共有でき、武部建設は大切な仕事のパートナーになりました」と話します。
2022年、山脇さんは「構造設計の可能性を追求したい」と、武部建設をはじめとする協業の仲間とともに自邸とアトリエづくりに取り組みました。山脇さんがこれまで蓄えた技術を惜しみなく注ぎ込み「構造をデザインとして見せ、手づくり感が伝わるような建物」を計画。それを実現するため、アトリエの開口部には木材を一般流通材に加工し、住宅用金物でつなぎ合わせる和格子耐力壁を採用しました。「武部建設は手間暇を惜しまずにこだわりをどうカタチにするのが最善か一緒に考えてくれ、大工目線の提案もたくさんしてくれました」と、山脇さんは振り返ります。武部建設の現場担当者も「構造計画がスリムで無駄がないため、建て方が早くに終わったのには驚きました。なるほど経済的な設計とはこういうことかと、新しい学びを得ました」と話します。
2023年に完成したアトリエと自宅母屋には、カラマツのほか、ナラやカツラ、マカバなどの道産材が多く使われています。山脇さんご夫妻が三笠の事務所に足繁く通って選んだストック古材も数多く用いられました。「道産材と汎用性のある技術を用いて、建てやすい住宅を目指しました。小さい部材を用いることで間伐材も利用でき、森づくりにも役立ちます」。
木の魅力を最大限に引き出した建物には、左官職人の野田肇介さんが手がけたカラフルな土壁パネルも採用。材料には敷地の土や妻の麻子さんの故郷、夕張の土を用いたといいます。「その一方で、アトリエの壁は石膏ボード現しのまま、家具、建具材にシナベニヤやラワン材なども適材適所に採用。メリハリのある空間づくりを心がけ、ローコストとは一線を画する建物が実現できました」。多くの人の手と想いがつくり上げたカラマツ素地の建物は、歳月と風雪に洗われながら、より温かく豊かな味わいを醸し出していくことでしょう。
写真:吉田昂平